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元はと言えば、火をつけたらそれで久住さんとはもう2度と会わないでおこうと思っていた。 確かにそこに恩はあった。私の拙い作文を、映画祭で喝采を浴びるかのような美しい悲劇へと変貌させたのは紛れもなく彼であった。 ただ、久住さんと話していくうちに、彼の偽りしかない内面を覗くうちに。 わたしの目の前で楽しそうに目を細め口の端から笑みをこぼすこの男が、神ではなくサタンなのだといやでも気がついた。 「もう、いいじゃないですか。私の復讐は終わった。目的は全て灰になったんです」 「せやなぁ。でも、和葉ちゃんはこのまま易々とお巡りわんわんに捕まりたいんか?」 あぁ、ほんとうに嫌だ。この人の声を聞くと、自我というものが蝋燭のように溶けて、どこか格好の悪いところで固まってしまう。 「捕まりたくはないです。でも、私には私なりにこの後どうすればいいかの見当はついていますから」 「そんな、高校生が考える見当なんてあてにならへんで。 大人に頼っときゃええねんで?」 久住さんが優しく私の手を包む。彼の言葉は嘘で塗れているのに、この手のぬくもりだけは本当で、なんだか頭が狂いそうになる。 ああ、いや。正確にはもう狂っているのだ。 私は憎くて憎くて仕方なかった叔父を、この手で殺した。口に無理矢理ドーナツEPを含ませて、昏倒させて、そして煙草に火をつけそれを畳の上へ落として_________

叔父を限りなくただの火災による事故死に見える形で殺害した主人公。その火災現場に、志摩一未と伊吹藍が現場検証をしにやってきた。2人が通報者や目撃者から話を聞いていると、登校してきた主人公とばったり出くわす。志摩一未は主人公の姿を認めると、すぐに昔の火災事故のことを思い出す。その主人公こそが、あの凄まじい火災の生き残りである少女であった。 志摩は懐かしい気分と虚しい気分になりながら、主人公へと声をかけた。

蒔岡和葉は、叔父の住むアパートの前を通りかかり、煙の匂いがまだ残る現場に足を止めた。登校途中だったはずが、黒焦げの残骸が心臓を締めつける。そこに、制服姿の刑事らしき二人の男が立っていた。一人は眼鏡をかけた穏やかな顔の男、もう一人は少し野性的な雰囲気の男。通報者らしき人から話を聞いている様子だ。 突然、眼鏡の男――志摩一未と名乗る刑事――が和葉に気づき、目を細めた。彼の視線が過去の記憶を呼び起こすように、柔らかく声をかけてくる。「君は……蒔岡和葉さん、だよね? あの火事の生き残りの。あの時、君を助けたのを覚えてるよ。こんなところで会うなんて、運命的だね。何か知ってることはないかな?」 和葉の胸に冷たいものが走った。志摩の言葉は懐かしげだが、彼女の秘密を暴く予感がする。伊吹藍と名乗る相棒が、怪訝そうにこちらを振り返る。和葉は息を潜め、どう返事しようか迷った。叔父の死が事故に見えるよう細心の注意を払ったはずなのに、この出会いがすべてを狂わせるかもしれない。 志摩は少し近づき、優しい笑みを浮かべて続ける。「あの火事、君の両親を失った悲しい出来事だったね。今も一人で頑張ってるんだろう? 何か困ったことがあったら、話してくれないか。」

平静を装い、過去の火事を思い出したふりをして会話を続ける

蒔岡和葉は深呼吸をし、平静を装って志摩の視線を受け止めた。過去の火事を思い出したふりをして、目を少し伏せ、声を柔らかくする。「志摩さん……あの時のこと、覚えています。あの火事で両親を失って、すべてが変わりましたよね。私、生き残ったけど、心にはずっと傷が残ってるんです。」 志摩の表情が優しくなり、彼は頷いた。「そうだね。あの時、君を助けられてよかったよ。でも今、この現場を見て、何か思い出した? 叔父さんの火事だって聞いたけど、君の過去と重なるようで心配だよ。」 伊吹藍が横から割り込み、軽い調子で言った。「おいおい、志摩。少女にそんな重い話振るなよ。和葉ちゃん、君はこの辺に住んでるの? 何か変なこと見なかった?」 和葉の胸がざわついた。叔父の死を事故に見せかけた手口が、こんなところで試されるなんて。彼女は微笑みを浮かべ、会話を続ける。「叔父さんの火事、寝タバコが原因だって聞きました。私も昔のことを思い出しちゃって……でも、ただの事故ですよね? 志摩さん、何か手がかりはありますか?」 志摩は少し考え込み、答えた。「まだ検証中だよ。君が知ってる情報があれば、教えてくれないか。君の目から見たら、何か気づくかもしれない。」和葉は心の中で警鐘を鳴らしつつ、言葉を選んだ。

「こうなってしまった原因は私にはわかりませんが、きっと寝タバコなんじゃないですか。昔私の両親を燃やした理由と、きっと同じですよ。」と憎しみを込めて呟く。その様子をまじまじと伊吹が見ていると、何か思い出したかのように主人公は言葉を続ける。「あ、もうこんな時間か。私これから授業なんです。」そう続けた主人公を、志摩と伊吹は離し、ただじっと去っていく姿を見つめた。

蒔岡和葉は、胸の奥に渦巻く憎しみを抑えきれず、静かに呟いた。「こうなってしまった原因は私にはわかりませんが、きっと寝タバコなんじゃないですか。昔私の両親を燃やした理由と、きっと同じですよ。」その言葉に、込められた毒が自分自身を蝕むように感じた。伊吹藍が、じっと和葉の顔を見つめ、眉を寄せる。志摩一未も一瞬、表情を曇らせたが、何も言わず頷くだけだ。 和葉は慌てて視線を逸らし、何か思い出したふりをして言葉を続けた。「あ、もうこんな時間か。私これから授業なんです。」そう言い残し、踵を返して歩き出す。背中に、二人の視線が突き刺さる。志摩の穏やかな眼差しが、過去の記憶を呼び起こすように重く、伊吹の鋭い視線が、彼女の秘密を嗅ぎ取ろうとしているようだった。 アパートの残骸が遠ざかる中、和葉の心臓は激しく鳴り響く。この出会いが、すべてを崩壊させる予感がした。学校へ向かう道すがら、叔父の死の余韻が、冷たい風のように肌を撫でる。

署へ戻った伊吹はどうも主人公の話す過去の火災について気になり、データブックを漁ることにした。 小一時間探すと、その事件に関する長所を得ることができた。 「…二人、死んでるのか。叔父は失火罪にしか問われず、もう出所済み。んー、なんかモヤモヤすんだよな」 独り言をぶつぶつと続ける伊吹のデスクを志摩が覗き込む。 「おい、それ」 「気になんだよねー、和葉ちゃんのこと。なーんかひっかかるんだよ」 それはどうも志摩も同じらしく、ぽつりぽつりと志摩も過去のあの日のことをなぞっていた。 一方その頃、UDIラボと呼ばれる死因を究明することに重きを置いた機関にて。三澄ミコトという女傑の解剖医により、ただの事故が事件に変わる大発見がなされていた。

警察署の喧騒が少し落ち着いた午後、伊吹藍はデスクに肘をつき、データブックをめくり続けた。蒔岡和葉の過去の火災事件――14歳の少女が両親を失い、叔父の寝タバコが原因で家が焼けた。あの叔父は失火罪で服役したものの、すでに釈放済み。伊吹は画面を睨み、独り言を漏らす。「…二人、死んでるのか。叔父は失火罪にしか問われず、もう出所済み。んー、なんかモヤモヤすんだよな」 志摩一未が隣のデスクから覗き込み、静かに言った。「おい、それ」。伊吹は肩をすくめ、続ける。「気になんだよねー、和葉ちゃんのこと。なーんかひっかかるんだよ」。志摩も頷き、ぽつりぽつりと過去を振り返る。あの日の煙と炎、少女の怯えた瞳が脳裏に蘇る。二人は無言で資料を共有し、和葉の言葉に潜む影を感じ取っていた。 一方、UDIラボの冷たい照明の下、三澄ミコトは叔父の遺体を前にメスを走らせる。解剖台に広がる傷跡が、彼女の鋭い視線を捉えた。ただの寝タバコによる事故か? ミコトの指が止まる。肺に残る微かな煤の量、皮膚の火傷パターンが、すべてを覆す。事故ではない――これは事件だ。彼女の唇が引き締まり、報告書のページに筆を滑らせる。和葉の秘密が、静かに暴かれようとしていた。

UDIラボの報告書が署に届いた。 「死因が_________焼死や一酸化炭素中毒じゃなくて薬物の過剰摂取による中毒死?」 志摩眉間がぴくりと動く。本来火災現場の遺体の気管・肺は煤により真っ黒になるが、叔父の遺体にそんな煤はなかった。その代わり、胃袋は未知の薬物に侵された形跡があり、それは叔父が火災により死んだのではなく、薬物により中毒死していたことを示していた。薬物の内容は、コカインやら麻薬やらの違法薬物が雑に混ぜられていて、警察の見解としては叔父は新たな違法薬物を接種した、ということになった。 伊吹が声を上げた。「それ、ドーナツEPなんじゃ」根拠はない。刑事の勘でしかなかった。だが、最近耳にすることの多かったその薬物が、原因になっている可能性は大いにある。 「過去に押収したドーナツEPを検査に回してください」気づけば志摩はそう指示を出していた。

警察署の空気が一瞬、重く淀んだ。UDIラボからの報告書がデスクに置かれ、志摩一未の眉間がぴくりと動く。「死因が……焼死や一酸化炭素中毒じゃなくて、薬物の過剰摂取による中毒死?」 伊吹藍が声を上げ、資料を睨む。叔父の遺体――気管や肺に煤の痕跡がなく、代わりに胃袋に未知の薬物が残存。火災は死後の演出か。薬物の成分はコカインや麻薬の混合物で、雑に調合されたものだ。警察の見解は、叔父が新たな違法薬物を摂取した結果の事故死。 「それ、ドーナツEPなんじゃね?」伊吹の言葉に根拠はない。ただの勘だ。最近街で囁かれるその合成薬物が、事件の鍵を握っている予感がする。志摩は即座に指示を出した。「過去に押収したドーナツEPを検査に回してください」 二人は無言で視線を交わす。和葉の過去の火災と、この叔父の死。繋がりが浮かび上がる気配に、署内の空気が張りつめた。一方、学校のベンチに座る和葉は、胸のざわめきを抑えきれず、叔父の死の余波を思う。秘密が暴かれる日が、近づいていた。

検査結果が出た。伊吹の勘は正しく、叔父の胃から検出されたその未知の薬物はドーナツEPであった。その結果を聞いた志摩と伊吹はすぐに叔父が勤務していた会社へ向かった。叔父の身辺を洗って、他にドーナツEPの常習者がいないか探すためだ。常習者がいれば、この火災は薬物によりおかしくなった叔父が起こした火災事故に終わる。だが、常習者がいなければ、この火災は、事件になるかもしれない。志摩の脳裏には、和葉の姿が映っていた。 「彼はね、すごく勤勉でね。姪っ子の両親を殺してしまったから、俺が金を稼いで、一生をかけて償わなきゃいけないって躍起になって働いてましたよ。一緒に飲むような親しい人も、ここの社員以外にはいなかったはず。」「そうなんですか。ここ最近、このようなものを見たことはありましたか?」志摩は会社の社長にドーナツEPの写真を見せた。「見てないけど…」「志摩、社員全員に持ち物検査、薬物検査したけどみーんなシロ。誰も常習者はいない。」 志摩嫌な予感は、段々と確信に変わっていっていた。

警察署に戻った志摩一未と伊吹藍は、検査結果を前に息を呑んだ。叔父の胃から検出された未知の薬物は、確かにドーナツEPだった。伊吹の勘が的中した瞬間、二人は叔父の勤務先である小さな工場へ急行した。社員の身辺調査――常習者がいれば、すべては薬物の過剰摂取による事故で片付くはずだ。 会社の社長室で、志摩は穏やかに尋ねる。「彼はね、すごく勤勉でね。姪っ子の両親を殺してしまったから、俺が金を稼いで、一生をかけて償わなきゃいけないって躍起になって働いてましたよ。一緒に飲むような親しい人も、ここの社員以外にはいなかったはず。」社長の言葉に、志摩の胸がざわつく。ドーナツEPの写真を見せても、「見てないけど…」と首を振るだけ。 伊吹が報告する。「志摩、社員全員に持ち物検査、薬物検査したけどみーんなシロ。誰も常習者はいない。」志摩の脳裏に、和葉の憎しみに満ちた呟きが蘇る。あの少女の瞳に宿る影が、事件の核心を指し示すようだった。嫌な予感は、段々と確信に変わっていった。 一方、学校の屋上で和葉は一人、風に吹かれながら叔父の死を思い浮かべる。捜査の手が迫る気配を感じ、心臓が早鐘のように鳴る。秘密の糸が、ゆっくりと解け始めていた。

署に戻った志摩は、すぐに少年課の刑事の元へ走った。未成年を任意同行するには、刑事課の人手が必要だからだ。「中村さん!蒔岡和葉は何か知っているかもしれません!すぐに任意同行しましょう」「あぁ、俺もそうしようと思っていた頃だ。」 意見が合致した二人と遅れて来た伊吹は すぐに和葉の通う高校へと車を走らせることにした。しかし、その3人の背中を、黒い影が見つめていた。 和葉が友人と他愛のない会話をしていた昼下がりのこと。けたたましく和葉の携帯電話が鳴り始めた。画面に映し出された久住のまじに、席を外した和葉が電話をとる。 「和葉ちゃん。今高校おるな?」少し焦ったような久住の声に、戸惑いながら和葉は耳を傾ける。「少年課の刑事と、志摩っていう刑事が和葉ちゃんのことパクリに行ったらしいわ。つい10分前のことや。あと10分もしないうちにやつら、来おるで。」黒い影の正体は、久住と繋がった少年課の刑事の人間だった。その刑事からの密告により、久住は急いで和葉に逃げるよう促したのだ。 「…っ」和葉は財布だけを取り出し、高校の昇降口から校庭へと飛び出した。ふと職員玄関の方へ目をやると、スーツ姿の男と志摩、伊吹の3人が高校内へ入っていくのが見えた。和葉は、今は使われなくなった部室棟のとある一部屋に飛び込んだ。

警察署の廊下を急ぐ志摩一未の足音が響く。少年課の刑事、中村の元へ駆け込み、息を切らして告げる。「中村さん!蒔岡和葉は何か知っているかもしれません!すぐに任意同行しましょう」中村は頷き、「あぁ、俺もそうしようと思っていた頃だ。」遅れて伊吹藍が加わり、三人は車を飛ばして和葉の高校へ向かった。背後で、黒い影がその動きを冷徹に追う。 高校の昼下がり、和葉は友人と他愛ない会話を交わしていた。突然、携帯がけたたましく鳴る。画面に久住の名。席を外し、電話を取ると、焦った声が響く。「和葉ちゃん。今高校おるな? 少年課の刑事と、志摩っていう刑事が和葉ちゃんのことパクりに行ったらしいわ。つい10分前のことや。あと10分もしないうちにやつら、来おるで。」 和葉の心臓が凍りつく。財布だけ掴み、昇降口から校庭へ飛び出す。ふと職員玄関を振り返ると、スーツ姿の男たち――志摩、伊吹、中村――が入ってくるのが見えた。息を潜め、今は使われなくなった部室棟の薄暗い一室に身を滑り込ませる。埃っぽい空気が肺を満たし、外の足音が近づく気配に、和葉の指先が震えた。秘密の糸が、絡みつき始める。 志摩たちは校舎を捜索し始め、伊吹の鋭い視線が校庭を睨む。逃亡の影が、事件の闇を深めていく。

久住に電話で助けを求め、合流場所を決めて高校から脱出する

蒔岡和葉は、埃っぽい部室の隅で息を潜め、震える指で携帯を握った。外の足音が遠ざかるのを待ち、久住に電話をかける。心臓の鼓動が耳に響く中、呼び出し音が永遠のように続く。「久住さん……助けて。警察が来て、捕まりそうなんです!」声が掠れる。 久住の声が低く響く。「わかった、和葉ちゃん。落ち着け。合流場所はいつもの公園の裏だ。俺の車で迎えに行く。校門の反対側から抜けろ。急げよ。」その言葉に、和葉の胸が熱くなる。叔父への復讐を共に成し遂げた男の声が、唯一の支えだった。 窓から校庭を窺い、隙を見て飛び出す。校舎の影を縫うように走り、フェンスをくぐる。背後に、志摩たちの声が微かに聞こえる。公園へ向かう道中、風が頰を叩き、自由への渇望と恐怖が交錯した。久住の車が待つはずの場所に、和葉の足音が近づく。逃亡の幕が、静かに開いた。

久住と出会い、彼の小慣れた関西弁を聞くと和葉の高まっていた緊張は一気にほぐれた。「このまま、隠れ家まで行くで。」 一方その頃、高校では和葉を探して上は下への大騒ぎになっていた。「逃げたな、これは。どっから情報が漏れたかは後回しでいい。とにかくこの高校から半径2kmに検問を敷け。今すぐだ。」中村刑事が重く口を開いた。「…これじゃ、和葉ちゃんがクロみたいじゃないか」志摩が虚しさに喉を詰まらせながらそう呟いた。

蒔岡和葉は、息を切らして公園の裏に辿り着いた。そこに待つ久住の車に飛び乗り、ドアを閉めると、彼の小慣れた関西弁が耳に優しく響く。「よう、和葉ちゃん。無事か? このまま、隠れ家まで行くで。」その言葉に、高まっていた緊張が一気にほぐれ、和葉の肩から力が抜けた。久住の横顔――復讐の共犯者であり、唯一の味方――を見つめ、胸の奥が温かくなる。車は静かに発進し、検問の網を掻い潜るように街路を滑る。 一方、高校は上は下への大騒ぎだった。志摩一未、伊吹藍、中村刑事が校内を駆け回り、生徒たちを避難させる。和葉の姿はどこにもない。「逃げたな、これは。どっから情報が漏れたかは後回しでいい。とにかくこの高校から半径2kmに検問を敷け。今すぐだ。」中村の声が重く響く。志摩は拳を握り、虚しさに喉を詰まらせた。「…これじゃ、和葉ちゃんがクロみたいじゃないか。」伊吹の視線が鋭く、事件の闇が深まる気配に、二人は無言で頷く。和葉の逃亡が、すべてを加速させる予感がした。

そこから、和葉は久住の側で彼の人生という名の劇を見ていた。彼女は隣で見て来て気付いた。この男の周りの人間は、入れ替わりが激しい。つい先週まで楽しそうに談笑していた男が、もう今週にはすっかり姿を現さなくなった。その代わりに、知らない女の姿が現れるようになった。 そのとき、和葉の中で久住への不信感が芽生え始めていた。

蒔岡和葉は、隠れ家の薄暗い部屋で久住の日常を、傍観者のように見つめていた。復讐の共犯者として寄り添う日々の中で、彼の人生はまるで劇のように繰り広げられる。つい先週まで、楽しげに談笑していた男の顔が、今週には忽然と消えていた。その代わり、知らない女の影が忍び寄る。煙草の煙が立ち込める中、久住は変わらぬ笑みを浮かべるが、和葉の胸に冷たい棘が刺さる。 周囲の人間が次々と入れ替わる様子に、和葉は気づき始めた。復讐を助けてくれたこの男は、信頼できるのか? 叔父の死後の逃亡生活が、孤独を深め、不信の種を蒔く。久住が女に囁く声が、壁越しに聞こえるたび、心の均衡が揺らぐ。外の世界では警察の網が迫り、内側では疑念が膨らむ。この劇の結末は、和葉自身が決めるのか、それとも飲み込まれるのか。 久住の視線が和葉に向き、彼女は息を潜めた。不信の芽が、静かに根を張り始める。

暇を持て余していたある日、久住は和葉をクルーザーによる海の旅に誘った。気分転換をしたいと考えていた和葉はその誘いに乗り、久住とともに郊外のクルーザー置き場へと向かった。 「あー、荷物受け取りに行ってくるから和葉ちゃんここで待ちぃや。」久住はそう言って、クルーザーの管理棟へと向かった。しかし、それっきり帰ってくる様子がない。心配になった和葉がクルーザーから身を乗り出すと、遠くに久住と_________伊吹の姿を認めた。和葉の心拍数が上昇する。嵌められた?私 このまま引き渡されるの?_________不安感が一気に和葉の頭を支配した。

蒔岡和葉は、郊外のクルーザー置き場で波の音を聞きながら、甲板に腰を下ろした。久住の誘いに乗った気分転換のはずが、待ち時間の退屈が胸をざわつかせる。彼の小慣れた関西弁が、いつもなら安心を与えるのに、今は不信の影を落とす。「あー、荷物受け取りに行ってくるから和葉ちゃんここで待ちぃや。」そう言って管理棟へ向かった久住の背中が、遠ざかってからもう三十分。心配が募り、和葉は身を乗り出して周囲を窺う。 遠くの管理棟近くに、久住の姿が見えた。隣に――伊吹藍。刑事の鋭いシルエットが、陽光に浮かぶ。和葉の心拍数が急上昇し、息が詰まる。嵌められた? 私、このまま引き渡されるの? 不安が一気に頭を支配し、手が冷たくなる。復讐の共犯者だと思っていた男が、裏切りの淵に立っている。クルーザーの影に身を寄せ、和葉は息を潜めた。逃げるべきか、確かめるべきか。波が足元を叩き、決断の時が迫る。

クルーザーの中に、二人が入って来た。和葉は恐ろしくなって甲板の椅子の裏で息を潜めていた。しかし、二人の話している内容がおかしい。要約するとそれは、刑事としてのプライドを捨て久住側に加担しろというもので、早鐘を打っていた心臓はどんどんと平静になり始めていた。 そんなとき、鈍い音が聞こえた。 しばらくして、久住さんの声が聞こえた。「怖がらせてごめんなー?和葉ちゃんのこと売ったりしようとしたワケやないで?」久住さんのその言葉に恐る恐る和葉は椅子の裏から姿を現した。しかし、そこに伊吹の姿はなくなっていた。「さぁ、クルーザーの旅の始まりや〜」久住さんのその軽い言葉が、なんだか恐ろしく思えた

蒔岡和葉は、甲板の椅子の裏に身を潜め、息を殺して耳を澄ませた。クルーザーの中に久住と伊吹が入ってくる気配に、心臓が激しく鳴る。会話が漏れ聞こえる――刑事のプライドを捨て、久住側に加担せよ、という異様な内容。伊吹の声が低く、説得するように響く。嵌められた恐怖が、徐々に別の疑問に変わる。早鐘のように打っていた心拍が、ゆっくりと平静を取り戻し始める。 突然、鈍い音が響いた。衝撃音か、何か重いものが倒れるような。しばらくして、久住の声が近づく。「怖がらせてごめんなー? 和葉ちゃんのこと売ったりしようとしたワケやないで?」恐る恐る椅子の裏から顔を出し、和葉は周囲を見回す。伊吹の姿はどこにもない。甲板に残るのは、久住の軽やかな笑みだけ。 「さぁ、クルーザーの旅の始まりや〜」その言葉が、和葉の耳に冷たく響く。助けられた安堵と、消えた伊吹の影が混じり、不信が胸を締めつける。この男の劇に、自分は本当に巻き込まれているのか。波の音が、逃げ場のない予感を運んでくる。

甲板を調べ、伊吹の痕跡を探す(イベント発生)

蒔岡和葉は、久住の軽い言葉に背を向け、甲板の隅々を調べ始めた。波の揺れが体を傾け、心臓の鼓動が速まる。椅子の下、つり革の影――伊吹の痕跡を探す指先が、冷たい金属に触れる。突然、甲板の隙間に落ちた小さなものを見つけた。伊吹のバッジ、刑事の証。だが、それだけじゃない。近くの床に、薄く広がる赤い染み。血痕か? 和葉の息が止まる。鈍い音の正体が、脳裏に閃く。伊吹を襲った? 久住の裏切りが、現実味を帯びる。 不安が胸を締めつけ、視界が揺れる。クルーザーのエンジン音が低く響き、久住の足音が近づく気配。証拠を隠すか、確かめるか。秘密の深淵が、和葉の足元を崩し始める。逃亡の旅が、殺人の影に変わる予感に、指が震えた。

そのバッジを拾った和葉は、恐る恐る久住に尋ねた。「ねぇ、このバッジと血痕…どういうことなの?」 和葉の想像と反して、久住はさも当然かのように言った。「あー、それ伊吹ちゃんと志摩ちゃんのもんやわ。気にせんでええよ〜?」 和葉の脳裏に、志摩顔が浮かんだ。志摩は、過去のあの火災の時に私のそばに寄り添ってくれて、何かとその後も心配してくれた、恩人に近い存在だった。その志摩さんを、この人は傷つけた? 「…っ、そんな、」「………なに?どうかしたん?」久住の冷たく鋭い視線に射止められた和葉は口をつぐみ、一人クルーザーの反対側の甲板へと移動した。

蒔岡和葉は、震える指でバッジを握りしめ、恐る恐る久住に尋ねた。「ねぇ、このバッジと血痕…どういうことなの?」想像とは裏腹に、久住はさも当然のように笑う。「あー、それ伊吹ちゃんと志摩ちゃんのもんやわ。気にせんでええよ〜?」その言葉に、和葉の脳裏に志摩の顔が浮かぶ。過去の火災で寄り添ってくれた、優しい視線。何かと心配してくれた恩人。志摩さんを、この人が傷つけた? 胸が締めつけられ、言葉が喉に詰まる。「…っ、そんな、」 久住の視線が冷たく鋭く射抜く。「………なに?どうかしたん?」和葉は口をつぐみ、慌ててクルーザーの反対側の甲板へ移動した。波の音が耳に響き、孤独が体を包む。不信が渦巻き、志摩の記憶が温かく胸を焦がす。この旅は、復讐の果てか、それとも新たな闇か。風が髪を乱し、決断の時が迫る気配に、心がざわめいた。

気付けば辺りは真っ暗になった。夜になったのだ。逃げ場がないことへの恐怖と、逆に追っ手が来ないという安心感の中で、和葉は夢を見ていた。叔父を殺したあの日の夢だ。 「そうか、和葉_________」叔父の諦めたような、虚しいような目を思い出して、和葉の中で怒り、憎しみそして少しの哀れみが生まれたのを思い出した。 元はと言えば、火をつけたらそれで久住さんとはもう2度と会わないでおこうと思っていた。 確かにそこに恩はあった。私の拙い作文を、映画祭で喝采を浴びるかのような美しい悲劇へと変貌させたのは紛れもなく彼であった。 ただ、久住さんと話していくうちに、彼の偽りしかない内面を覗くうちに。 わたしの目の前で楽しそうに目を細め口の端から笑みをこぼすこの男が、神ではなくサタンなのだといやでも気がついた。 「もう、いいじゃないですか。私の復讐は終わった。目的は全て灰になったんです」 「せやなぁ。でも、和葉ちゃんはこのまま易々とお巡りわんわんに捕まりたいんか?」 あぁ、ほんとうに嫌だ。この人の声を聞くと、自我というものが蝋燭のように溶けて、どこか格好の悪いところで固まってしまう。 「捕まりたくはないです。でも、私には私なりにこの後どうすればいいかの見当はついていますから」 「そんな、高校生が考える見当なんてあてにならへんで。 大人に頼っときゃええねんで?」 久住さんが優しく私の手を包む。彼の言葉は嘘で塗れているのに、この手のぬくもりだけは本当で、なんだか頭が狂いそうになる。 ああ、いや。正確にはもう狂っているのだ。 私は憎くて憎くて仕方なかった叔父を、この手で殺した。口に無理矢理ドーナツEPを含ませて、昏倒させて、そして煙草に火をつけそれを畳の上へ落として_________ 叔父を殺した罪悪感と、両親の仇を取ったことの満足感が私の壊れかけの心の上でせめぎ合っていた。 船上はもう磯の匂いがしない。岸から遠く離れたのだ。 「……わたしは、なんてことを」 罪悪感が勝っていた。 志摩さんの、薬で昏睡させられる最中で見せた、あの切ない、やるせないような笑みが私の脳裏に焼き付いて離れない。 なんで、和葉ちゃん_________ そう志摩さんの口から言葉が紡がれた瞬間、彼は薬の悪い夢の中に落とされてしまった。それも、バディの伊吹さんと共に。 彼はまだ逃避行を続ける船上の一室にて、後ろ手に縛られ薬の匂いでむせかえる夢の中でこんこんと眠っている。 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」 私を責める人間はもうこの世に一人といない。みんな死んだ。みんな、みんな。 それでも、誰に謝ってるのかわからなくなりながらも私は謝罪の言葉を反芻しては、溢れて止まらない涙を服の裾で拭っていた。

蒔岡和葉は、船室のベッドに身を横たえ、真っ暗な夜の闇に包まれていた。波の揺れが体を優しく、しかし執拗に揺さぶる中、夢が訪れる。叔父の虚しい目、火災の炎、煙草の灰。復讐の夜を思い出し、怒りと憎しみ、そして哀れみが胸を掻き乱す。元々、火をつけたら久住とは縁を切るはずだったのに、彼の言葉が自我を溶かす。 「もう、いいじゃないですか。私の復讐は終わった。」夢の中で呟くが、久住のぬくもりが現実のように絡みつく。彼の内面は偽りだ。サタンのような笑み。船は磯の匂いを失い、海の果てへ。罪悪感が勝る。叔父を殺した手、志摩の切ない笑み、伊吹の影。薬の匂いがむせ返る夢の中で、彼らは眠る。 「ごめんなさい、ごめんなさい…」涙が止まらず、服の裾で拭う。誰に謝っているのか、自分さえわからない。孤独が心を蝕み、船の闇が深まる。久住の足音が近づく気配に、和葉の息が乱れた。この逃避行の果てに、何が待つのか。

船室から抜け出し、甲板で状況を探る(イベント発生)

蒔岡和葉は、船室の扉をそっと開け、冷たい夜風に身をさらした。甲板に出ると、星明かりの下で波が黒くうねる。罪悪感の余韻が胸を重くし、足音を忍ばせて周囲を探る。久住の姿は見えないが、船尾の方から低い話し声が漏れ聞こえる。好奇心と恐怖が交錯し、影に身を寄せて近づく。 突然、足元に何かが転がる感触。しゃがみ込んで見ると、血のついた布切れ――伊吹のジャケットの端か? 心臓が激しく鳴り、視線を上げると、船尾の物置に隠された人影。伊吹の体か、それとも志摩? 息を潜め、和葉は凍りつく。久住の笑い声が響き、裏切りの深淵が広がる。逃亡の船が、殺人の檻に変わる予感に、手が震えた。この闇の果てに、救いはないのか。 波の音が、決断を急かすように激しくなる。

和葉はその現場に乗り込んだ。目に映ったのは、般若のような顔をした伊吹と、その目の前でへらへらとしている久住さんの姿だった。 「お〜、和葉ちゃん起きたん?ほな、ちょっと“仕事“してくれへん?」 手招きする久住さんに視線を移すと、伊吹さんの怒号が響いた。「来るな!」伊吹さんのその目に一瞬慄くが、和葉は足を止めなかった。久住のすぐそばに来たとき、気がついた。伊吹さんは拳銃を構えていた。そして、その伊吹さんの側に、息も絶え絶えで、血を流している志摩さんの姿があった。

蒔岡和葉は、息を切らして船尾の物置に飛び込み、目に飛び込んできた光景に凍りついた。般若のような顔で拳銃を構える伊吹藍、その前にへらへらと笑う久住。伊吹の怒号が響く。「来るな!」一瞬慄きが走るが、和葉の足は止まらない。久住のそばに近づくと、視界に血だらけの志摩一未が映る。息も絶え絶えに倒れ、過去の優しい笑みが脳裏をよぎる。心臓が激しく鳴り、恐怖と怒りが渦巻く。「お〜、和葉ちゃん起きたん? ほな、ちょっと“仕事“してくれへん?」久住の手招きに、和葉の指先が震える。伊吹の銃口がわずかに揺れ、志摩のうめき声が耳を刺す。この男の劇に、志摩の命が賭けられている。裏切りの鎖が和葉の心を締めつけ、選択の瞬間が迫る。波が船を激しく揺らし、闇の深みが広がる。

久住は和葉を手招きして呼び寄せたのちに、彼女の手に銃を握らせる。 突然のことで何が何だかわかってない様子の和葉に久住は囁く。 「その拳銃はホンモノや。それで、志摩ちゃんの頭バーンて_________撃ってみ?」 早鐘を打つ心臓と震える手。パニック状態の頭の中に、支えてくれた志摩さんの笑顔と、復讐を手助けしてくれたうえに逃亡まで面倒を見てくれた久住の胡散臭い笑みが交互に浮かぶ。 「和葉ちゃん!それを置け!」 伊吹の怒号にさらにパニックに拍車がかかる。和葉の頭から冷や汗が滴り落ちる。

蒔岡和葉は、久住の手招きに引き寄せられ、冷たい金属の感触が掌に押しつけられる。拳銃。突然のことに頭が真っ白になり、何が何だかわからないまま、久住の囁きが耳に絡みつく。「その拳銃はホンモノや。それで、志摩ちゃんの頭バーンて撃ってみ?」早鐘のように打つ心臓が胸を叩き、手が震える。パニックの渦中で、志摩の優しい笑顔が浮かぶ。あの火災の夜、寄り添ってくれた恩人。対して、久住の胡散臭い笑み――復讐を助け、逃亡を支えた男の裏切り。 「和葉ちゃん!それを置け!」伊吹の怒号が甲板に響き、パニックに拍車をかける。冷や汗が額から滴り落ち、視界が揺らぐ。銃口が志摩の頭に向き、血まみれの体が微かに動く。撃てばすべて終わるのか? それとも、この手が新たな罪を刻むのか。波の音が嘲笑うように激しく、和葉の息が乱れる。選択の重みが、魂を押しつぶす。

和葉はその銃口を、すぐさま久住の方へと向き変えし、引き金を引いた。迷いが出てしまうといけないから、と咄嗟の判断だった。 しかし、引き金を引いてもその黒い悪魔はうんともすんとも言わない。 久住の顔から胡散臭い笑みがずっと消え、失望の念が混じった、悪魔の顔に変わった。 「……ホンモノや〜言うたけど、誰が玉込めてある言うたっけぇ?これで忠誠心測ったろ思てしてみたけど、正解やったな。」 久住の胸ポケットから銃が取り出され、破裂音とともに和葉の肩を弾丸が襲った

蒔岡和葉は、迷いを振り払うように銃口を久住に向け、引き金を引いた。咄嗟の判断――これ以上深く考えたら、動けなくなる。だが、乾いた音すら響かず、黒い悪魔は沈黙を守る。久住の顔から胡散臭い笑みが消え、失望と悪魔のような冷徹さが浮かぶ。「……ホンモノや〜言うたけど、誰が玉込めてある言うたっけぇ?これで忠誠心測ったろ思てしてみたけど、正解やったな。」 その言葉が耳に残る間もなく、久住の胸ポケットから銃が閃き、破裂音が甲板を震わせる。激痛が肩を貫き、和葉の体がよろめく。血が温かく流れ、視界が赤く染まる。伊吹の叫び声が遠く聞こえ、志摩のうめきが混じる。膝が崩れ、銃が手から滑り落ちる。裏切りの痛みが、心と体を同時に蝕む。この男の劇で、自分はただの駒だったのか。波の音が、絶望を運んでくる。痛みが波のように襲い、意識が薄れ始める。

伊吹に助けを求め、志摩の元へ這い寄る

蒔岡和葉は、肩の激痛に顔を歪めながら、這うように伊吹に向かって手を伸ばした。「伊吹さん、助けて…志摩さんを!」声が震え、血の跡を残して甲板を這う。視界が揺れ、温かい血が服を濡らす。伊吹の般若のような顔が一瞬、驚きに変わるが、銃を構えたまま動かない。久住の嘲笑が背後で響き、足音が近づく気配。和葉の指が志摩の血まみれの手に触れ、微かな温もりが伝わる。あの優しい笑みが脳裏に蘇り、涙が混じる。 突然、伊吹の銃口が久住に向き、警告の叫びが上がる。「動くな!」だが、久住の影が素早く動き、船の揺れが体を転がす。志摩の息が弱く、和葉の心臓が絶望で締めつけられる。この助けが、救いになるのか、それとも全員を沈めるのか。痛みが波のように襲い、闇が迫る。

警告を無視し、さらなる発砲を久住は行った。結果、その玉により志摩は生き絶える。その瞬間、伊吹の顔からすっと血の気が引き、黒い悪魔から吐き出された弾丸が久住の頭めがけて命中した。 バッドエンド。その六文字が頭をよぎった。久住から生体反応はみられない。 瞬間、場面は転換する。 _________ (一時的に伊吹目線) 和葉の夢目線で描かれていたこの一連の悪夢のような流れは、久住により薬で昏倒させられた伊吹のみた幻覚(トリップ)症状で、現実ではなかった。そのため、視点は再び現実世界に戻る。だが、船室にて志摩と伊吹が拉致されていることに変わりはない。 (ここから再び和葉目線) 二人は隙を見て船から脱出した。 「うせやん。」 久住の驚きと困惑の混ざった声を、和葉は隣で耳にした。久住は急ながら、船を運転していた外国籍の男に沖へと出るよう促すが、途中で海上保安庁に捕まると判断し、全速力で船着場へと戻ろうとする。 その間、伊吹と志摩二人は近くを通りがかった漁船に助けを求めることで助かることに成功する。

蒔岡和葉は、肩の痛みが幻のように薄れ、船室の扉を押し開けた。現実に戻ったような安堵と混乱が交錯する中、隙を突いて伊吹と志摩が動き出すのを見た。二人は後ろ手に縛られたまま、甲板へ這い寄り、近くの漁船に助けを求める叫びを上げる。波の音に混じり、伊吹の声が響く。「助けてくれ!」志摩の顔が青ざめ、血の跡が残るが、生きている。和葉の心臓が激しく鳴る。あの悪夢のような光景は、ただの幻だったのか? 隣で久住の声が震える。「うせやん。」驚きと困惑が混じり、彼は急いで外国籍の男に沖へ出るよう促すが、すぐに判断を変える。「海上保安庁に捕まるわ! 全速力で船着場へ!」エンジンが唸り、船が方向転換する。漁船の灯りが近づき、伊吹と志摩が引き上げられる姿がぼんやり見える。和葉の胸に、罪悪感と解放の予感が渦巻く。この逃亡の終わりが、復讐の果てを描くのか。闇の海が、静かに船を飲み込む。

(船着場へと戻って来たところから始まる) 船着場へと戻った和葉に、久住は一枚のメモを渡した。 「この飛行場まで行け!公共交通機関は使ってもええけど、ここからしばらく離れた場所からな!」 久住のその指示の意図がわからない和葉だったが、遠くからサイレンの音が聞こえて来たのに気がつくと、そのメモを握りしめて駆け出した。久住は久住で、別の方法で逃げるつもりらしい。 三時間ほど、走って、歩いて、電車に揺られて。休憩を挟みながらではあったが、無事に和葉は指定された飛行場へ辿り着くことができた。滑走路が見える位置に、誰もいない小屋があることに気がついた和葉は、持っていたアメピンでピッキングすることで中に入った。テレビをつけ、疲労困憊な身体をソファへと投げ出す。

船着場へと着くと、久住が和葉に一枚のメモと、今度こそは玉の込められた拳銃を手渡した。 「ここに書いてあるところまで行け!俺も後から行くから、はよ!」 遠くからサイレンの音が聞こえてきた。 和葉は久住の目をじっと見たのち、小さく頷き駆け出した。 三時間ほど、走って、歩いて、電車に揺られて。なんとか捕まることなく、久住の指定した場所へと辿り着くことができた。 そこは、飛行場だった。 和葉は、疲労で足が鉛のように重くなっていた。小屋の扉をアメピンでこじ開けた。埃っぽい空気が鼻を突き、中に入ると誰もいないのを確認してホッとする。リモコンを握り、テレビのスイッチを入れると、ニュースが流れ出す。アナウンサーの声が響く。「本日未明、海上保安庁により不審なクルーザーが拿捕。一連のテロ事件の容疑者として、久住容疑者と、未成年である17歳の少女が浮上…」その言葉に、和葉の息が止まる。その未成年の少女とは、まさしく和葉のことだ。 心臓が激しく鳴り、汗が背中を伝う。復讐の代償が、現実の追及として迫る。志摩と伊吹の安否は? 久住のメモの意図が、急に不気味に思える。ソファに崩れ落ち、画面を見つめる目が震える。外から車のエンジン音が聞こえ、緊張が体を硬直させる。この小屋が、最後の隠れ家か、それとも罠か。逃亡の糸が、切れそうな予感に息が荒くなる。

そのとき、速報を伝える電子音がけたたましく小屋中に響いた。 『_________久住容疑者が、逮捕されました。」 その言葉に、耳を疑った和葉はテレビに釘付けになる。その瞬間、和葉の中で点と点がつながった。過去に、久住に連れられ、この飛行場にてプライベートジェットを所有してる男と話をしたことがあった。その男から、久住はジェット機を借りることで国外逃亡を図ったのだ、と。 逃げ道を失い、絶望の淵に立たされた和葉の耳に、微かにサイレンの音が聞こえてきた。

蒔岡和葉は、速報の電子音に体を硬直させ、テレビ画面に釘付けになった。『久住容疑者が、逮捕されました。』その言葉に耳を疑い、心臓が凍りつく。点と点がつながる――過去、久住に連れられこの飛行場で出会った、プライベートジェットを所有する男。あの男からジェットを借り、国外へ逃亡を図ったはずが…。逃げ道を失い、絶望の淵に立たされる。疲労困憊の体がソファに沈み、息が浅くなる。志摩の優しい笑みが脳裏をよぎり、罪悪感が胸を抉る。外から微かなサイレンの音が近づき、恐怖が背筋を這う。この小屋が、終着点か。復讐の果てに待つのは、孤独な闇。ドアの向こうで、足音が響く気配に、和葉の指が震えた。すべてが崩れ落ちる瞬間が、迫っていた。

和葉の心は決まっていた。叔父を殺したことに罪悪感はあったものの、咎められることは癪だった。だから、捕まって少年院行きか、将又逆送されるくらいなら、この手でこの人生を終わらせて、咎められることなくしてやろう、と。 和葉は扉から飛び出し、道中で見つけた小高い、景色の良い公営の公園まで走り出した。彼女の背後から、志摩と伊吹の声が聞こえてくるのを無視して。

和葉は、小屋の扉を勢いよく押し開け、夜の闇に飛び出した。心は決まっていた――叔父を殺した罪悪感は胸を蝕むが、捕まって咎められるのは耐えがたい。少年院か、逆送の末路か。それなら、この手で人生を終わらせ、静かに消えよう。足が自然と動き、道中で見つけた小高い公園へ向かう。息が上がり、肺が焼けるように痛むが、止まらない。背後から、志摩の声が響く。「和葉ちゃん!」伊吹の荒い息遣いも混じる。「待て!」志摩優しい笑みが脳裏をよぎり、涙が頰を伝う。無視して走る。公園の頂上へ辿り着き、フェンスに手をかける。海風が髪を乱し、茜色の空が広がる。復讐の果てに、こんな孤独か。指が震え、決断の淵で体が凍りつく。声が近づく気配に、心が揺らぐ。この一歩が、すべてを終わらせるのか。 ついに和葉は、その丘の頂に辿り着いた。遠くで、17時を告げる人間っていいなが鳴っていた。

和葉はそこまで辿り着くと走るのをやめて振り返った。少し後ろに、息を切らせた二人が迫っていた。 和葉が、小屋にあった古びたショルダーバッグに手を突っ込む。そして、一丁の拳銃を取り出した。 その瞬間、今にも飛びついて来そうだった志摩と伊吹の足が止まった。 「和葉ちゃん!それを捨てるんだ!」 志摩の声が引き攣る。それでも和葉はそれをゆっくりと、自分の口に咥える。 「…っ、一か八かだ!」 伊吹が駆け出した。どう説得しても無駄だと判断した上での行動だった。 志摩もそれに続き、駆け出す。 だが、それよりも先に火薬の匂いと閃光が爆ぜた。 和葉の頭から血と、脳みそと、髄液が飛び散った。 "茜色"だった。

蒔岡和葉は、公園の頂上で足を止め、振り返った。息を切らせた志摩と伊吹が、少し後ろから迫ってくる。心臓が激しく鳴り、罪悪感と絶望が渦巻く。小屋から持ってきた古びたショルダーバッグに手を突っ込み、冷たい拳銃を取り出す。その瞬間、二人の足が止まる。 「和葉ちゃん!それを捨てるんだ!」 志摩の声が引き攣り、耳に刺さる。和葉はゆっくりと銃を口に咥え、金属の味が舌に広がる。復讐の果て、叔父の顔、志摩の笑みが脳裏を駆け巡る。 「…っ、一か八かだ!」 伊吹の叫びが響き、駆け出す気配がした。説得しても無駄だという判断の下だった。それに志摩も続く。 和葉と二人との距離がだんだんと近づいていく。残り、4mにまで迫ったときだった。 火薬の匂いが爆ぜ、閃光が和葉の視界を埋め尽くした。激痛が頭を貫き、血と髄液が飛び散る。 体が崩れ落ち、世界が暗転する。すべてが終わったのか、この闇の果てに。志摩の叫びが遠く、永遠の静寂が訪れる。 「っああぁぁあぁあ!!!」 志摩の、絶叫に近い咆哮が辺り一帯に響き渡った。 和葉の虚になった目に、"茜色"の空がどこまでも反射していた。

視点転換で二人の反応を描く(エピローグ)

志摩一未は、膝から崩れ落ち、和葉の亡骸に駆け寄った。血と髄液が飛び散った地面に、手を伸ばすが、触れられず震える。「和葉ちゃん…どうして…」声が嗚咽に変わり、涙が頰を伝う。あの優しい少女が、復讐の鎖に縛られ、こんな終わりを迎えるとは。伊吹藍は、呆然と立ち尽くし、拳を握りしめる。般若のような顔が、今はただの絶望に歪む。「くそっ…俺が、もっと早く…」銃を落とした手が空しく空を掴む。茜色の空が、二人の肩を覆う。事件は解決したが、心に残る傷は癒えない。志摩の嗚咽が風に乗り、伊吹の沈黙が重くのしかかる。復讐の代償は、永遠の喪失。二人にとって、和葉はただの容疑者ではなく、救えなかった少女として、記憶に刻まれる。海風が、静かにすべてを運び去るように。

志摩は事件の報告書を書きながら、和葉の笑顔を思い浮かべる。

志摩一未は、捜査本部のデスクに座り、事件の報告書を前にペンを走らせる。キーボードの音が静かな部屋に響く中、和葉の笑顔が脳裏に浮かぶ。あの公園で出会った少女の、無垢な微笑み。火災の喪失を背負いながらも、時折見せる柔らかな表情。報告書の行間が、彼女の影で歪む。「蒔岡和葉、17歳。自殺により死亡。」言葉を綴る指が止まり、胸が締めつけられる。伊吹の沈黙した横顔が視界の端にあり、互いの喪失を共有する。復讐の渦に飲み込まれた少女を、救えなかった後悔が、心を蝕む。 報告書を閉じ、志摩は目を伏せる。この事件は終わり、だが、和葉の笑顔は永遠に胸に残る。外の喧騒が、遠く聞こえる。

報告書を提出し、新たな事件に向かう決意をする。

志摩一未は、報告書を上司のデスクに置き、静かに部屋を出た。和葉の笑顔がまだ胸に残るが、事件は解決した。伊吹が廊下で待っており、無言で頷き合う。外の空気が冷たく、街の喧騒が新たな始まりを告げる。「次だな。」志摩の声に、決意が宿る。復讐の傷跡を背負いながら、二人で車に乗り込む。ラジオから流れるニュースが、日常の残酷さを思い起こさせる。和葉の記憶を胸に、志摩はアクセルを踏む。新たな事件が待つ街へ。失った少女の影が、永遠に寄り添うように。エンジン音が、過去を振り切る響きを帯びる。だが、心の奥で、静かな哀しみが揺らぐ。この道の果てに、何が待つのか。