
元はと言えば、火をつけたらそれで久住さんとはもう2度と会わないでおこうと思っていた。 確かにそこに恩はあった。私の拙い作文を、映画祭で喝采を浴びるかのような美しい悲劇へと変貌させたのは紛れもなく彼であった。 ただ、久住さんと話していくうちに、彼の偽りしかない内面を覗くうちに。 わたしの目の前で楽しそうに目を細め口の端から笑みをこぼすこの男が、神ではなくサタンなのだといやでも気がついた。 「もう、いいじゃないですか。私の復讐は終わった。目的は全て灰になったんです」 「せやなぁ。でも、和葉ちゃんはこのまま易々とお巡りわんわんに捕まりたいんか?」 あぁ、ほんとうに嫌だ。この人の声を聞くと、自我というものが蝋燭のように溶けて、どこか格好の悪いところで固まってしまう。 「捕まりたくはないです。でも、私には私なりにこの後どうすればいいかの見当はついていますから」 「そんな、高校生が考える見当なんてあてにならへんで。 大人に頼っときゃええねんで?」 久住さんが優しく私の手を包む。彼の言葉は嘘で塗れているのに、この手のぬくもりだけは本当で、なんだか頭が狂いそうになる。 ああ、いや。正確にはもう狂っているのだ。 私は憎くて憎くて仕方なかった叔父を、この手で殺した。口に無理矢理ドーナツEPを含ませて、昏倒させて、そして煙草に火をつけそれを畳の上へ落として_________
叔父を限りなくただの火災による事故死に見える形で殺害した主人公。その火災現場に、志摩一未と伊吹藍が現場検証をしにやってきた。2人が通報者や目撃者から話を聞いていると、登校してきた主人公とばったり出くわす。志摩一未は主人公の姿を認めると、すぐに昔の火災事故のことを思い出す。その主人公こそが、あの凄まじい火災の生き残りである少女であった。 志摩は懐かしい気分と虚しい気分になりながら、主人公へと声をかけた。
平静を装い、過去の火事を思い出したふりをして会話を続ける
「こうなってしまった原因は私にはわかりませんが、きっと寝タバコなんじゃないですか。昔私の両親を燃やした理由と、きっと同じですよ。」と憎しみを込めて呟く。その様子をまじまじと伊吹が見ていると、何か思い出したかのように主人公は言葉を続ける。「あ、もうこんな時間か。私これから授業なんです。」そう続けた主人公を、志摩と伊吹は離し、ただじっと去っていく姿を見つめた。
署へ戻った伊吹はどうも主人公の話す過去の火災について気になり、データブックを漁ることにした。 小一時間探すと、その事件に関する長所を得ることができた。 「…二人、死んでるのか。叔父は失火罪にしか問われず、もう出所済み。んー、なんかモヤモヤすんだよな」 独り言をぶつぶつと続ける伊吹のデスクを志摩が覗き込む。 「おい、それ」 「気になんだよねー、和葉ちゃんのこと。なーんかひっかかるんだよ」 それはどうも志摩も同じらしく、ぽつりぽつりと志摩も過去のあの日のことをなぞっていた。 一方その頃、UDIラボと呼ばれる死因を究明することに重きを置いた機関にて。三澄ミコトという女傑の解剖医により、ただの事故が事件に変わる大発見がなされていた。
UDIラボの報告書が署に届いた。 「死因が_________焼死や一酸化炭素中毒じゃなくて薬物の過剰摂取による中毒死?」 志摩眉間がぴくりと動く。本来火災現場の遺体の気管・肺は煤により真っ黒になるが、叔父の遺体にそんな煤はなかった。その代わり、胃袋は未知の薬物に侵された形跡があり、それは叔父が火災により死んだのではなく、薬物により中毒死していたことを示していた。薬物の内容は、コカインやら麻薬やらの違法薬物が雑に混ぜられていて、警察の見解としては叔父は新たな違法薬物を接種した、ということになった。 伊吹が声を上げた。「それ、ドーナツEPなんじゃ」根拠はない。刑事の勘でしかなかった。だが、最近耳にすることの多かったその薬物が、原因になっている可能性は大いにある。 「過去に押収したドーナツEPを検査に回してください」気づけば志摩はそう指示を出していた。
検査結果が出た。伊吹の勘は正しく、叔父の胃から検出されたその未知の薬物はドーナツEPであった。その結果を聞いた志摩と伊吹はすぐに叔父が勤務していた会社へ向かった。叔父の身辺を洗って、他にドーナツEPの常習者がいないか探すためだ。常習者がいれば、この火災は薬物によりおかしくなった叔父が起こした火災事故に終わる。だが、常習者がいなければ、この火災は、事件になるかもしれない。志摩の脳裏には、和葉の姿が映っていた。 「彼はね、すごく勤勉でね。姪っ子の両親を殺してしまったから、俺が金を稼いで、一生をかけて償わなきゃいけないって躍起になって働いてましたよ。一緒に飲むような親しい人も、ここの社員以外にはいなかったはず。」「そうなんですか。ここ最近、このようなものを見たことはありましたか?」志摩は会社の社長にドーナツEPの写真を見せた。「見てないけど…」「志摩、社員全員に持ち物検査、薬物検査したけどみーんなシロ。誰も常習者はいない。」 志摩嫌な予感は、段々と確信に変わっていっていた。
署に戻った志摩は、すぐに少年課の刑事の元へ走った。未成年を任意同行するには、刑事課の人手が必要だからだ。「中村さん!蒔岡和葉は何か知っているかもしれません!すぐに任意同行しましょう」「あぁ、俺もそうしようと思っていた頃だ。」 意見が合致した二人と遅れて来た伊吹は すぐに和葉の通う高校へと車を走らせることにした。しかし、その3人の背中を、黒い影が見つめていた。 和葉が友人と他愛のない会話をしていた昼下がりのこと。けたたましく和葉の携帯電話が鳴り始めた。画面に映し出された久住のまじに、席を外した和葉が電話をとる。 「和葉ちゃん。今高校おるな?」少し焦ったような久住の声に、戸惑いながら和葉は耳を傾ける。「少年課の刑事と、志摩っていう刑事が和葉ちゃんのことパクリに行ったらしいわ。つい10分前のことや。あと10分もしないうちにやつら、来おるで。」黒い影の正体は、久住と繋がった少年課の刑事の人間だった。その刑事からの密告により、久住は急いで和葉に逃げるよう促したのだ。 「…っ」和葉は財布だけを取り出し、高校の昇降口から校庭へと飛び出した。ふと職員玄関の方へ目をやると、スーツ姿の男と志摩、伊吹の3人が高校内へ入っていくのが見えた。和葉は、今は使われなくなった部室棟のとある一部屋に飛び込んだ。
久住に電話で助けを求め、合流場所を決めて高校から脱出する
久住と出会い、彼の小慣れた関西弁を聞くと和葉の高まっていた緊張は一気にほぐれた。「このまま、隠れ家まで行くで。」 一方その頃、高校では和葉を探して上は下への大騒ぎになっていた。「逃げたな、これは。どっから情報が漏れたかは後回しでいい。とにかくこの高校から半径2kmに検問を敷け。今すぐだ。」中村刑事が重く口を開いた。「…これじゃ、和葉ちゃんがクロみたいじゃないか」志摩が虚しさに喉を詰まらせながらそう呟いた。
そこから、和葉は久住の側で彼の人生という名の劇を見ていた。彼女は隣で見て来て気付いた。この男の周りの人間は、入れ替わりが激しい。つい先週まで楽しそうに談笑していた男が、もう今週にはすっかり姿を現さなくなった。その代わりに、知らない女の姿が現れるようになった。 そのとき、和葉の中で久住への不信感が芽生え始めていた。
暇を持て余していたある日、久住は和葉をクルーザーによる海の旅に誘った。気分転換をしたいと考えていた和葉はその誘いに乗り、久住とともに郊外のクルーザー置き場へと向かった。 「あー、荷物受け取りに行ってくるから和葉ちゃんここで待ちぃや。」久住はそう言って、クルーザーの管理棟へと向かった。しかし、それっきり帰ってくる様子がない。心配になった和葉がクルーザーから身を乗り出すと、遠くに久住と_________伊吹の姿を認めた。和葉の心拍数が上昇する。嵌められた?私 このまま引き渡されるの?_________不安感が一気に和葉の頭を支配した。
クルーザーの中に、二人が入って来た。和葉は恐ろしくなって甲板の椅子の裏で息を潜めていた。しかし、二人の話している内容がおかしい。要約するとそれは、刑事としてのプライドを捨て久住側に加担しろというもので、早鐘を打っていた心臓はどんどんと平静になり始めていた。 そんなとき、鈍い音が聞こえた。 しばらくして、久住さんの声が聞こえた。「怖がらせてごめんなー?和葉ちゃんのこと売ったりしようとしたワケやないで?」久住さんのその言葉に恐る恐る和葉は椅子の裏から姿を現した。しかし、そこに伊吹の姿はなくなっていた。「さぁ、クルーザーの旅の始まりや〜」久住さんのその軽い言葉が、なんだか恐ろしく思えた
甲板を調べ、伊吹の痕跡を探す(イベント発生)
そのバッジを拾った和葉は、恐る恐る久住に尋ねた。「ねぇ、このバッジと血痕…どういうことなの?」 和葉の想像と反して、久住はさも当然かのように言った。「あー、それ伊吹ちゃんと志摩ちゃんのもんやわ。気にせんでええよ〜?」 和葉の脳裏に、志摩顔が浮かんだ。志摩は、過去のあの火災の時に私のそばに寄り添ってくれて、何かとその後も心配してくれた、恩人に近い存在だった。その志摩さんを、この人は傷つけた? 「…っ、そんな、」「………なに?どうかしたん?」久住の冷たく鋭い視線に射止められた和葉は口をつぐみ、一人クルーザーの反対側の甲板へと移動した。
気付けば辺りは真っ暗になった。夜になったのだ。逃げ場がないことへの恐怖と、逆に追っ手が来ないという安心感の中で、和葉は夢を見ていた。叔父を殺したあの日の夢だ。 「そうか、和葉_________」叔父の諦めたような、虚しいような目を思い出して、和葉の中で怒り、憎しみそして少しの哀れみが生まれたのを思い出した。 元はと言えば、火をつけたらそれで久住さんとはもう2度と会わないでおこうと思っていた。 確かにそこに恩はあった。私の拙い作文を、映画祭で喝采を浴びるかのような美しい悲劇へと変貌させたのは紛れもなく彼であった。 ただ、久住さんと話していくうちに、彼の偽りしかない内面を覗くうちに。 わたしの目の前で楽しそうに目を細め口の端から笑みをこぼすこの男が、神ではなくサタンなのだといやでも気がついた。 「もう、いいじゃないですか。私の復讐は終わった。目的は全て灰になったんです」 「せやなぁ。でも、和葉ちゃんはこのまま易々とお巡りわんわんに捕まりたいんか?」 あぁ、ほんとうに嫌だ。この人の声を聞くと、自我というものが蝋燭のように溶けて、どこか格好の悪いところで固まってしまう。 「捕まりたくはないです。でも、私には私なりにこの後どうすればいいかの見当はついていますから」 「そんな、高校生が考える見当なんてあてにならへんで。 大人に頼っときゃええねんで?」 久住さんが優しく私の手を包む。彼の言葉は嘘で塗れているのに、この手のぬくもりだけは本当で、なんだか頭が狂いそうになる。 ああ、いや。正確にはもう狂っているのだ。 私は憎くて憎くて仕方なかった叔父を、この手で殺した。口に無理矢理ドーナツEPを含ませて、昏倒させて、そして煙草に火をつけそれを畳の上へ落として_________ 叔父を殺した罪悪感と、両親の仇を取ったことの満足感が私の壊れかけの心の上でせめぎ合っていた。 船上はもう磯の匂いがしない。岸から遠く離れたのだ。 「……わたしは、なんてことを」 罪悪感が勝っていた。 志摩さんの、薬で昏睡させられる最中で見せた、あの切ない、やるせないような笑みが私の脳裏に焼き付いて離れない。 なんで、和葉ちゃん_________ そう志摩さんの口から言葉が紡がれた瞬間、彼は薬の悪い夢の中に落とされてしまった。それも、バディの伊吹さんと共に。 彼はまだ逃避行を続ける船上の一室にて、後ろ手に縛られ薬の匂いでむせかえる夢の中でこんこんと眠っている。 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」 私を責める人間はもうこの世に一人といない。みんな死んだ。みんな、みんな。 それでも、誰に謝ってるのかわからなくなりながらも私は謝罪の言葉を反芻しては、溢れて止まらない涙を服の裾で拭っていた。
船室から抜け出し、甲板で状況を探る(イベント発生)
和葉はその現場に乗り込んだ。目に映ったのは、般若のような顔をした伊吹と、その目の前でへらへらとしている久住さんの姿だった。 「お〜、和葉ちゃん起きたん?ほな、ちょっと“仕事“してくれへん?」 手招きする久住さんに視線を移すと、伊吹さんの怒号が響いた。「来るな!」伊吹さんのその目に一瞬慄くが、和葉は足を止めなかった。久住のすぐそばに来たとき、気がついた。伊吹さんは拳銃を構えていた。そして、その伊吹さんの側に、息も絶え絶えで、血を流している志摩さんの姿があった。
久住は和葉を手招きして呼び寄せたのちに、彼女の手に銃を握らせる。 突然のことで何が何だかわかってない様子の和葉に久住は囁く。 「その拳銃はホンモノや。それで、志摩ちゃんの頭バーンて_________撃ってみ?」 早鐘を打つ心臓と震える手。パニック状態の頭の中に、支えてくれた志摩さんの笑顔と、復讐を手助けしてくれたうえに逃亡まで面倒を見てくれた久住の胡散臭い笑みが交互に浮かぶ。 「和葉ちゃん!それを置け!」 伊吹の怒号にさらにパニックに拍車がかかる。和葉の頭から冷や汗が滴り落ちる。
和葉はその銃口を、すぐさま久住の方へと向き変えし、引き金を引いた。迷いが出てしまうといけないから、と咄嗟の判断だった。 しかし、引き金を引いてもその黒い悪魔はうんともすんとも言わない。 久住の顔から胡散臭い笑みがずっと消え、失望の念が混じった、悪魔の顔に変わった。 「……ホンモノや〜言うたけど、誰が玉込めてある言うたっけぇ?これで忠誠心測ったろ思てしてみたけど、正解やったな。」 久住の胸ポケットから銃が取り出され、破裂音とともに和葉の肩を弾丸が襲った
伊吹に助けを求め、志摩の元へ這い寄る
警告を無視し、さらなる発砲を久住は行った。結果、その玉により志摩は生き絶える。その瞬間、伊吹の顔からすっと血の気が引き、黒い悪魔から吐き出された弾丸が久住の頭めがけて命中した。 バッドエンド。その六文字が頭をよぎった。久住から生体反応はみられない。 瞬間、場面は転換する。 _________ (一時的に伊吹目線) 和葉の夢目線で描かれていたこの一連の悪夢のような流れは、久住により薬で昏倒させられた伊吹のみた幻覚(トリップ)症状で、現実ではなかった。そのため、視点は再び現実世界に戻る。だが、船室にて志摩と伊吹が拉致されていることに変わりはない。 (ここから再び和葉目線) 二人は隙を見て船から脱出した。 「うせやん。」 久住の驚きと困惑の混ざった声を、和葉は隣で耳にした。久住は急ながら、船を運転していた外国籍の男に沖へと出るよう促すが、途中で海上保安庁に捕まると判断し、全速力で船着場へと戻ろうとする。 その間、伊吹と志摩二人は近くを通りがかった漁船に助けを求めることで助かることに成功する。
(船着場へと戻って来たところから始まる) 船着場へと戻った和葉に、久住は一枚のメモを渡した。 「この飛行場まで行け!公共交通機関は使ってもええけど、ここからしばらく離れた場所からな!」 久住のその指示の意図がわからない和葉だったが、遠くからサイレンの音が聞こえて来たのに気がつくと、そのメモを握りしめて駆け出した。久住は久住で、別の方法で逃げるつもりらしい。 三時間ほど、走って、歩いて、電車に揺られて。休憩を挟みながらではあったが、無事に和葉は指定された飛行場へ辿り着くことができた。滑走路が見える位置に、誰もいない小屋があることに気がついた和葉は、持っていたアメピンでピッキングすることで中に入った。テレビをつけ、疲労困憊な身体をソファへと投げ出す。
そのとき、速報を伝える電子音がけたたましく小屋中に響いた。 『_________久住容疑者が、逮捕されました。」 その言葉に、耳を疑った和葉はテレビに釘付けになる。その瞬間、和葉の中で点と点がつながった。過去に、久住に連れられ、この飛行場にてプライベートジェットを所有してる男と話をしたことがあった。その男から、久住はジェット機を借りることで国外逃亡を図ったのだ、と。 逃げ道を失い、絶望の淵に立たされた和葉の耳に、微かにサイレンの音が聞こえてきた。
和葉の心は決まっていた。叔父を殺したことに罪悪感はあったものの、咎められることは癪だった。だから、捕まって少年院行きか、将又逆送されるくらいなら、この手でこの人生を終わらせて、咎められることなくしてやろう、と。 和葉は扉から飛び出し、道中で見つけた小高い、景色の良い公営の公園まで走り出した。彼女の背後から、志摩と伊吹の声が聞こえてくるのを無視して。
和葉はそこまで辿り着くと走るのをやめて振り返った。少し後ろに、息を切らせた二人が迫っていた。 和葉が、小屋にあった古びたショルダーバッグに手を突っ込む。そして、一丁の拳銃を取り出した。 その瞬間、今にも飛びついて来そうだった志摩と伊吹の足が止まった。 「和葉ちゃん!それを捨てるんだ!」 志摩の声が引き攣る。それでも和葉はそれをゆっくりと、自分の口に咥える。 「…っ、一か八かだ!」 伊吹が駆け出した。どう説得しても無駄だと判断した上での行動だった。 志摩もそれに続き、駆け出す。 だが、それよりも先に火薬の匂いと閃光が爆ぜた。 和葉の頭から血と、脳みそと、髄液が飛び散った。 "茜色"だった。
視点転換で二人の反応を描く(エピローグ)
志摩は事件の報告書を書きながら、和葉の笑顔を思い浮かべる。
報告書を提出し、新たな事件に向かう決意をする。
