
ホタルビ3人の交流。
物語を始める...
雨音が静かに響くホタルビ寮の廊下。障子の向こうから、ぼんやりとした人影が話し声を漏らしていた。
「──つまり、キミは『殊玉善治チャンネル』の再生回数を伸ばす方法を考えているのだね?」
善治の声は、いつもの芝居がかった口調ながら、どこか哀愁を帯びている。彼は空中に浮かんだまま、書生服の袖を揺らした。
「そうだな……やっぱり、もっとキャッチーなタイトルが必要なんじゃないか?」
伯玖が腕を組み、首を傾げる。その横では、昴流が茶を啜りながら、二人の会話を追っていた。
「『殊玉善治の~』ってシリーズ名もいいけど、やっぱ『和尚さんの昔話』の方がウケが良いんだよ。子供達にもわかりやすいし」
伯玖が軽い調子で言うと、善治が目を剥いた。
「ノー!それは文学への冒涜だ!ボクは純文学を世に送り出したいのだよ!」
「そんなこと言ったってよ、実際数字に出てるんだから仕方ないだろ」
伯玖がため息をつく。昴流は口元をほころばせながら、そっと茶碗を置いた。
(どうやら、また伯玖さんが善治くんを怒らせているらしい)
「ええと……善治くんの言いたいこともわかるよ。でも、伯玖さんは、より多くの人に届く方法を考えてるんじゃないかな?」
昴流が優しく間に入る。伯玖が「そうだそうだ」と頷いた。
「はあ……なるほどちぎる秋なすび。キミたちの言い分も理解したよ。しかしだね、ボクには夢があるのだ。未来の天才作家として、己の芸術を貫く義務がある!」
善治が胸を張る。その姿は誇らしげで、どこか愛おしかった。
「『将来の名作』って感じでタイトルをつけてみる?」
昴流の提案に、善治が目を輝かせた。彼はそっと空中でくるりと一回転してから、顎に手を当てて考え込む。
「ほう……『将来の名作』、ね。それはなかなか面白い発想だ、昴流くん!」
善治が興奮して拳を握る。その表情は、子供のように無邪気だった。伯玖も「お、いいんじゃね?」と相槌を打って、横でうんうん頷く。
「だが、肝心春日の要石。肝心なのはタイトルだけではない。内容が伴わねば名作は生まれないのだよ。しかし……タイトルで心を掴む、というのも一つの才能だねえ」
善治が呟きながら、スラリと手を伸ばす。彼の指先から、微かな光が漏れた。
「『夏の残響』、なんてどうかな……あ、でも善治くんのスタイルじゃないよね」
昴流の言葉に、善治がハッと息を飲んだ。彼の茜色の瞳が、一瞬で潤み出す。次の瞬間には、彼の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「『夏の残響』……なんて……なんて美しい響きだ!」
善治が両手で顔を覆い、声を震わせる。その様子に、昴流は慌てて手を振った。
「あ、えっと……ごめん、やっぱり変だよね?善治くんの作る物語は、もっと──」
「ノー!ノープロブレムだよ、昴流くん!」
善治が涙をぬぐい、真剣な表情で昴流を見つめた。
「むしろ、キミのその感性こそが、ボクが求めていたものだ。『夏の残響』──確かに、ボクの現在のスタイルとは少し違うかもしれない。しかしだね、新たなる扉を開くきっかけになるかもしれないではないか!」
彼が興奮気味に壁をすり抜けて、昴流のすぐ近くまで浮遊してくる。
「どうだろう、昴流くん。一緒に、新しい物語を紡いでみたくはないかい?」
「善治くんと一緒に創作できるなんて、光栄だよ」
昴流の言葉を聞いた瞬間、善治の瞳から再び涙があふれ出した。彼は両手を広げ、天井に向かって叫ぶように言った。
「嗚呼……!なんて……なんて光栄な言葉だ!キミは話の分かる淑女だよ、昴流くん!」
善治が空中でくるりと回り、胸元の琵琶(彼の言うビワー)を抱え込む。その姿は、子供のように無邪気で、どこか誇らしげだった。横で見ていた伯玖が笑いをこらえながら口を挟む。
「おいおい、善治さん。そんなに泣いてたら、お茶がしょっぱくなっちまうぞ?」
「邪魔をするでない、伯玖くん!今、ボクは感動の絶頂にあるのだ!」
善治が涙をぬぐい、真剣な表情で昴流を見つめる。彼の茜色の瞳には、確かな熱が宿っていた。
「それならば、早速始めよう。キミの『夏の残響』という言葉に、ボクがインスパイアされた物語を捧げたまえ。きっと、素晴らしいものが生まれる。そう確信しているのだよ!」
彼の声は、確かな期待と喜びに満ちていた。
