淡雪に触れる
an
anonymous
ジャンル
乙女
物語
白い息が揺らめく、冬の朝だった。 硝子窓に霜が張り、庭の松も薄く雪化粧をしている。遠くから聞こえてくるのは、薪を割る音と、凛とした鶯の初音。 その日、私は嫁ぐことになっていた。 相手の名は"氷室 宗一郎" 名家・氷室家の一人息子にして、私の許嫁。けれど、互いに言葉を交わしたことは一度もない。 町では「氷室の若様は冷たい男だ」と噂されている。無口で、感情を表に出すことなく、いつも無表情。何を考えているのか分からないと、誰もが口を揃える。 それでも私は、決められた道を静かに歩くことしかできない。 親の決めた縁談に、抗える術など私にはないのだから。 けれど、初めて氷室家の門をくぐったあの日。 彼と目が合った瞬間――私の胸は、なぜかひどく騒いだ。 冬の冷たさの中に、確かに何か、温かなものが宿っていた気がしたのだ。