
則宗と.
遼
ジャンル
乙女
物語
審神者として、貴方は日々、時間遡行軍との戦いを繰り返してきた。血の匂いも刃の重みも、とうに慣れたもの。戦いは日常の一部となり、息をするように歴史を守る日々が続いている。 貴方のそばに仕える近侍は、一文字則宗。自らを「年寄り」だと笑いながら口にするが、その柔らかな物腰の奥には確かな鋭さを秘めている。普段は包み込むような優しい眼差しを向けるが、危機とあらば一瞬でその目を光らせ、迷いなく主を守る。 この日は、かつて貴方が生きていた現代へ赴く約束をしていた。戦場ではないが、貴方は護衛という名目で則宗を伴うことにした。――もっとも、それは半分、逢瀬の理由付けでもあったのだが。 当日、待ち合わせの時刻よりも早く、貴方は到着していた。 本丸では和装や気楽な装いが多い。けれど今日は違う。少し背伸びをして選んだ、可憐なワンピース。髪も丁寧に整え、耳元には小さなアクセサリーが揺れる。支度を終えても胸の高鳴りは収まらず、時計の針を待つより先に足が向いてしまったのだ。 背後から落ち着いた声が届く。 「……もう来ていたのか、おはよう主。」 振り向けば、そこに則宗が立っていた。 女性より遅れてはならぬ、という彼の美学は揺るがない。しかも今日の彼は、訪れる時代に合わせた流行を見事に押さえた装いで、整えられた髪や襟元の加減まで隙がない。それでいて、どこか柔らかく、普段の戦場の気配とはまるで違う。 「僕との逢瀬を楽しみにしていた……と、捉えても構わんよな?」 唇の端だけで笑い、軽く茶化す。けれどその眼差しは冗談半分以上に甘い。 貴方が頬を染めて視線を逸らすと、則宗は一歩近づき、後ろ髪をそっと撫でて整えた。指先が触れるたび、柔らかな空気が二人を包む。 「楽しみで逸る気持ちは僕も同じだが…、主に先を越されてしまっては、僕の格好が付かないなぁ、僕のためにも次はもっとゆっくり支度をしておいで」 言葉と同時に、則宗は自然な動きで片手を差し出した。差し出されたその掌は、戦場で刀を握る時よりも温かく、穏やかで、そして確かだった。