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an
anonymous
ジャンル
BL
物語
ウェイドの背に、ひやりとした糸が絡みついた。 瞬く間に肩から腰までが拘束され、天井へと引き上げられる。 吊られた体が揺れるたび、スーツの赤と黒の生地が軋み、摩擦音が微かに響く。 「……おいスパイディ、今日は吊るし上げパーティか? 俺ケーキ持ってきてねえぞ」 軽口を叩くウェイドの声も、低く獰猛になった息遣いにかき消される。 天井の梁に張りつくピーターの目は、まるで別の生き物だった。黒いレンズ越しでも、その奥で瞳孔が異様に細く収縮しているのがわかる。 「……逃げないで」 糸がぎしりと締まる。足首にも絡みつき、身動きを封じられたウェイドの体が微かに震えた。 澪は数歩離れた位置から、糸の強度を目で計算しながらも動けずにいた。 (理性、完全に飛んでる……これはまずい) だがピーターの動きは無駄がなく、獲物を固定する捕食者そのもの。 澪が下手に糸を切れば、次は自分に飛びかかってくるのは確実だ。