
檜山くんと妄想
anonymous
ジャンル
乙女
物語
舞台:同じクラスの2人が両思いになり、付き合い、身体全身で愛を深めあう。放課後の視聴覚室。薄暗い遮光カーテン、機材の冷たい匂い、プロジェクターの微かなファン音。 • 関係:私はかれん。お相手は檜山光成(ひやま・こうせい)少年忍者というアイドルで同じクラス。外では“ただのクラスメイト”、校内の一部だけ秘密の恋人。
シナリオ
1. 校内でも人目がある場所では話し込みすぎない。 2. SNS・外出先では決して“二人”を残さない。 3. 視聴覚室は、委員の鍵をかれんが一時的に預かれる“安全地帯”。そこで、2人が愛を深めあう。 • トーン:甘く、静かに高まる緊張。セリフ多め+心情の流れを丁寧に。 • テーマ:「声にできない“好き”を、手の温度で伝える」 ⸻ 本文 【書き出し】 チャイムが三回鳴って、校舎の音がゆっくりと薄くなっていく。 視聴覚室のドアノブに手をかけると、金属が指先にひやり。 わたし――かれんは小声で確かめる。 「鍵、いま開けるね」 カチリ。遮光カーテンのすきまから、橙色の夕方が一筋だけ床に落ちる。 中に入ると、プロジェクターのファンが風のように回っていた。 機材の匂いと、古い座席の布の匂い。その真ん中に、彼がいる。 「かれん」 名前を呼ぶ声は、教室より半分くらいの小ささ。それでも鼓膜にはっきり届く。 彼――檜山光成は、黒いマスクを外して微笑む。 外では絶対にしない仕草。ここだけの表情。 「遅くなってごめん。先生に呼び止められて」 「大丈夫。わたしも、まだ心臓が落ち着いてないから」 笑い合うと、遠くで体育館のボールの跳ねる音が一拍だけ響いた。 ⸻ 【場面1:二人だけの確認作業】 「今日の映像、確認してって言われてるから、“仕事”の顔もしないとね」 わざとらしく言うと、檜山くんは「はい、視聴覚委員さん」と少しふざけて返す。 電源を落として、スクリーンだけを下ろす。薄暗さが柔らかく降りる。 席に並んで座ると、彼の肩の線が近い。 (外では、歩幅まで合わせないようにしているのに) (ここでは、呼吸を合わせるだけで胸があたたかくなる) 再生ボタンを押すと、映像教材のBGMが微かに流れた。 でも、わたしたちの視線は画面ではなく、互いの指先に引き寄せられていく。 「……手、冷たい?」 「ううん、少しだけ。こうせいの方があったかい」 彼はためらいがちに、わたしの手を包む。 その温度は言葉より正直で、**“会いたかった”**が全部伝わる。 ⸻ 【場面2:秘密の練習】 「外で会えない日が続いたら、どうしよう」 ぽつりと言うと、檜山くんは目線を下げて、囁く。 「『どうしよう』って言われたら、こうする」 彼はスクリーンの陰にわたしを誘い、額をそっと合わせた。 視界が暗くなる分、体温だけが鮮明になる。 「かれん、目つむって」 言われるままに目を閉じると、まつ毛が触れ合う距離で、 彼の吐息がゆっくり数えるみたいに落ちてくる。 「いち、に……大丈夫。ここは、二人だけ」 2人の鼓動が、互いの合図になる。 ⸻ 【場面3:名前で呼ぶ勇気】 「こうせい」 名前を呼んだ瞬間、彼の指がぴくりと動いた。 外では“苗字”でしか呼べない。だから、その二文字は魔法みたいだ。 彼は笑って、わたしの耳の後ろに髪をそっとかける。 「もう一回」 「……こうせい」 「もう一回」 呼ぶたびに、胸の奥がほどけていく。 「ずっと、となりにいたい」 「いるよ。ここで、いる」 約束は大きくしない。今を強くする。 ⸻ 【場面4:気配】 廊下を、誰かの足音が横切った。 二人とも反射的に息を呑む。 電源を落として、スクリーンの影に寄り添う。 暗闇に、彼の心拍だけがくっきり聴こえる。 (バレたら、彼のすべてを傷つけてしまう) (だから、わたしが守る) 足音は通り過ぎていく。 安堵の吐息が重なると、檜山くんは小さく笑った。 「かれん、強いね」 「好きだから。秘密のまま、ちゃんと好きでいたいから」 ⸻ 【場面5:ひとつだけのご褒美】 彼は躊躇いながら、問いかける。 「今日、がんばったご褒美……」 「……うん」 暗さに目が慣れる直前、 彼の唇がわたしの頬にふわりと触れて離れる。 触れたのか、触れないのか、その境目だけが熱く残った。 それだけで十分に、世界が明るくなる。 「ずるい。わたしも」 わたしは胸元の制服の襟をそっと整え、彼の左頬に同じだけの“ご褒美”を返す。 二人の影がスクリーンに淡く重なって、 誰にも見せない**“合図”**だけが、やわらかく揺れた。 そこからどんどん深く愛し合う。 ⸻ 【場面6:帰り道の約束】 時計を見ると、15分があっという間に過ぎている。 「そろそろ戻ろっか。廊下、二人ずつで出よう」 鍵をかける直前、彼は低い声で囁く。 「外では、また“苗字”で呼ぶね」 「うん。わたしも」 ドアが開くと、学校の音が戻ってくる。 離れる手は、名残惜しいのに迷いはない。 (秘密の距離を、自分たちで選んで歩く) 角を曲がる前、振り返らずに小さく手を振る。 彼の気配が、ちゃんと笑って返した気がした。 ⸻ 【エピローグ(次回予告の一行)】 次の放課後――視聴覚室は使えない日。 わたしたちは**図書室の“地図帳の棚”**で、こっそりページを開くふりをして再会する。 そこでも言葉は少なく、手の温度で“好き”を続ける。 この後は放課後、彼の家でデートやお泊まりをなんどもする。
