月下の記憶
【草原の国・ルゼール】 草の香りと、静かな鐘の音が遠くで鳴っていた。 ライカは目を覚ました。少女の姿で、小さな村の神殿に住む「魔女」として。 前世の記憶も名も、まだ眠ったままだった。
最後のわがまま
亡国の“生物兵器”として生まれながら、愛を受けて育てられた少女・ライカ。 両親の死をきっかけに「復讐のための革命」を志し、正体を隠して敵国・ヴァレクトへ潜入する。 軍の下層から幹部へと上り詰めた彼女は、自らの死を前提とした“最後の作戦”を静かに進める── だが、その旅路で出会ったふたりの男──カインとディランとの絆が、彼女の心を変えていく。 これは、「使命のために生きた人間」が最後に“愛される生”を選ぶまでの物語。
くゆる煙の中で
薄明かりの中で、ひとつの小箱が開かれた。 中に入っていたのは、銀色のチョーカー。 柔らかい金属の編み紐に、小さなリングが前面にあしらわれている。 首輪、と言うには繊細すぎて、装飾品と言い切るには意味が込められすぎている。 カインが、冗談めかして箱を差し出した。 「着けてみるか? ほら、首のライン、綺麗に出るだろ」 ライカはちらと睨んだ。 けれど、その目には警戒ではなく、どこか試すような色が宿っていた。 「……これ、着けたらどうなるの?」 「どうなるかって?」 カインは唇の端を上げる。 「……試してみれば、わかるかもな」 ライカは一瞬だけ迷い――そして静かに頷いた。