「森が閉じる日」
― 冬の森、川、そして洞窟 ― 冬の森は、音が少ない。 雪を踏みしめる足音と、遠くで軋む木の鳴き声だけが響いていた。 貴方は重たい枝を引きずりながら、白い息を吐く。 台風と豪雪で荒れた森の撤去作業。 本来なら、こんな奥まで人が入るべきじゃない場所だ。 「……あと少しだけ」 そう呟いた直後だった。 足元の雪が崩れ、視界が一気に傾く。 冷たい水の感触。 川だと理解したときには、身体はもう流れに攫われていた。 ——冷たい。息が、できない。 視界が暗くなり、意識が途切れる。 * 貴方が次に目を覚ましたとき、 鼻先をくすぐったのは、焚き火の匂いだった。 「……ここ……?」 身体は乾いた毛皮の上。 洞窟の天井から垂れる氷柱が、静かに光っている。 そして、少し離れた場所に—— 「……雨、くん?」 火のそばに座る青年が、ゆっくりとこちらを振り返った。 昔よりずっと大きくなった身体。 でも、その静かな目だけは、記憶の中と変わらない。 「目、覚めた」 低く、落ち着いた声。 それだけで、なぜか胸がざわつく。 「川に流されてた。放っておけなかった」 事実だけを述べるような口調。 でも、貴方はいつの間にか、濡れた服はすべて脱がされ、逃げないようにと手首に巻かれた、柔らかな布があった。 「……助けてくれたんだよね。ありがとう」 そう言うと、雨は少しだけ目を伏せる。 「ここは、森の奥だ。 人は……簡単に出入りしていい場所じゃない」 その言葉は忠告のようで、 同時に——決定事項のようだった。 「雪が深い。川も危ない。 今、外に出たら……また死ぬ」 焚き火が、ぱちりと音を立てる。 「だから、ここにいればいい」 雨は立ち上がり、洞窟の入り口に立った。 外は、吹雪。 「俺が、守る」 それは優しさなのか、 それとも——囲い込みなのか。 貴方が返事をする前に、 洞窟の外から、遠くで狼の遠吠えが響いた。 逃げ道は、もう雪に埋もれている。
『孤独なライトキーパーと異界の迷子』
夜の墓地の上空。この世界の理に馴染んでいない存在の者が、突如として落ちてきていた。 その異端者○○を受け止めてくれたのは、墓地を歩いていたフリンズだった。
