
捏造
夜の名残がまだ部屋の隅に滞っていた。 わずかな朝の光が障子を透かして差し込み、包帯の白がそれを反射して淡く光る。 煉獄は鏡の前で制服の襟を正した。 布が肌に触れるたび、微かな痛みが波のように広がる。 その痛みが、まだ自分が“存在している”ことを確かめる唯一の手段だった。 彼は呼吸を整えようとする。だが肺は重く、空気が入ってくるたびに喉の奥が軋む。 昨夜は眠れなかった。思考が止まらず、静寂が音を持つほどに煩かった。 任務のこと、仲間のこと、父の顔。 そして、自分が「柱」と呼ばれるに値するのかという問い。 その問いだけが、ずっと燃え続けていた。 ふと玄関の外で足音がした。 宇髄天元。今日から共に任務にあたる隊士。 派手な男だが、信頼できる男でもある。 煉獄は笑顔を作った。 それは意識して作り上げた仮面で、顔の筋肉が思うように動かないのを無理やり押し上げたものだった。 「うむ、天元。早いな!」 勢いよく扉を開けた瞬間、視界が傾く。 光が滲み、音が遠のく。 重力がどちらに向いているのか、一瞬わからなくなる。 宇髄の腕が伸びた。 「おいおい、大丈夫か? 顔色が派手じゃねぇな」 力強い手が肩を支える。 その接触の感触が、あまりに生々しくて煉獄はわずかに身を引いた。 宇髄の目が一瞬、細くなった。 だが次の瞬間、いつもの豪快な笑みを浮かべる。 「まぁいい。任務前に倒れられたら派手に困る。行くぞ!」 煉獄は頷き、足を踏み出した。 包帯の下で、何かがきしむ。 痛みが走るたび、心の中の炎がかすかに揺れた。 それでも歩き出す。 燃え尽きるまで、己を奮い立たせるために。
