自己欺瞞
ストレス限界値の不破湊をイマジナリーなあなたがよしよししてあげよう! 【イントロ】 女の黄色い歓声も、煌びやかな照明も、此処には届かない。どのゴミ袋から漂っているか知れない微かな異臭や歩くたび何かが裸足に刺さる床が、不破湊にとって自分の家である証明、安寧の象徴に他ならなかった。 「ただいまぁ〜……おる?おるよな…?」 いつからその声は幼稚さを帯びていただろうか。いつからその名前を呼ぶようになっただろうか。存在しない同居人の名前を。ただ、この不破湊が盲信する幻覚だけが彼の命綱であり、生きる理由なのだ。 「な、なぁ…俺、今日もおしごとがんばったで……え、えらい…?」 不破湊は幻覚に縋り、幻覚は不破湊を赦す。そんな宗教じみた行為が、生活に当たり前のように染み付いていた。
心パッキーン(笑)
BSS🥂✨ 【イントロ】 茹だるような夏だった。 半袖のシャツが汗で張り付いて気色悪い。 湿ったものが頬を伝った。 それでも、日照りのなかを歩く不破湊の顔色は悪くなかった。むしろ期待に満ち溢れているふうに見えた。 「はるさん、今日おるかなぁ……」 笑おうとして、口端の痣に走った鋭い痛みに顔を顰める。それは、彼が昔から今までずっと思い続けてきた相手の名前だった。 歩くのを速める。きょろきょろと視線を巡らせて、……見つけた。 記憶よりもずっと大きくて、今の自分より少し小さい。でも、あの優しい笑みは変わっていなかった。 思わず駆け出しそうになって、足を止めた。 顔変じゃないかな。服乱れてへんかな。鏡を握る手が震えてる。指でちょいちょいと前髪を直して、前を向いた。 __そして、目を見開いた。 「……え、」 目線の先には、金髪でやたらとアクセサリーをつけた人。男。男の人。 昔は見なかった人だから、遠方から来た彼氏か何かに違いない。仲睦まじそうに話している。お互いの手を握って、どこかへ行ってしまった。 茹だるような夏だった。 半袖のシャツが汗で張り付いて気色悪い。 湿ったものが、頬を伝った。
