
春になれば君は
あやね
ジャンル
BL
物語
高校3年の柊(しゅう)と、同じクラスで幼なじみの律(りつ)。 ずっと一緒にいたのに、2年生の秋を境に少しずつ距離ができはじめた。 受験、部活、恋… そして、“言えなかった好き”が、互いの心を遠ざけていく。 それでも、笑ってしまうのは君だけで 涙を見せたいのも、君だけだった―― 進路が決まり、離れ離れになる卒業式。 二人が最後に選ぶのは、すれ違ったままの別れか、 それとも遅すぎた本音の再会か。 ■ 柊(しゅう) ・高校3年生 ・無口で不器用だけど、律にだけは甘い ・律のことが昔からずっと好きだけど、自分の気持ちを隠している ・推薦で東京の大学に合格済み ■ 律(りつ) ・高校3年生 ・明るくて社交的、でも繊細で傷つきやすい ・柊と話す時間が減って、寂しさをごまかしている ・柊の進路を知り、自分も告白できずに悩んでいる
シナリオ
3月。受験が終わって、あとは卒業を待つだけの静かな季節。 柊はいつものように、人気のない図書室の前で立ち止まっていた。 そこに――背後から小さな声。 「……柊。」 律の声だった。 「最近、ずっと避けてない?俺のこと。」 静かで、でも震えるような問いに、柊は言葉を失う。 「……そんなつもり、ない。」 「ほんとに?」 律の目は、柊の顔をまっすぐ見ていた。 でもその目の奥にある“なにか”から、柊は目を逸らした。 「推薦、受かったんだろ。東京の…遠いとこ。」 「うん。」 それだけ言って、柊は図書室に入ろうとする。 けれど、律が袖を掴んだ。 「……俺さ。おまえが誰と仲良くしても、何話してても、なんともないフリしてたよ。」 「でも、やっぱ無理だった。俺…ずっと、」 その先の言葉は、チャイムにかき消された。 「……じゃあな、律。」 そう言って歩き出した柊の背中に、 律は何も言えず、その手を静かに離した。 ――春が来れば、柊はいなくなる。 そのことだけが、律の胸を締めつけていた。