甘い
an
anonymous
ジャンル
乙女
物語
夕方、放課後の校舎の屋上。 夏の空は、すこし赤くて、すこし静かで、風が気持ちいい。 「……ねえ、光一くん」 となりにいる彼に、あなたはそっと話しかける。 髪が風でふわりとなびいて、光一の腕がちょっとだけそれを押さえるように動いた。 「ん?」 光一がこっちを向く。目がまっすぐで、でもなんだかやさしくて、 ちょっとだけ眠そうな、あのいつもの光一の目。 あなたは胸がドキンとした。言いたいことがあったのに、言葉がぜんぶどこかに行ってしまった。 そのまま、気づいたら手を伸ばしていた。 光一の腕を、そっとつかんで。 「……どうしたの?」 その声も、ふわっとやさしい。 「……なんか、今日だけ、特別な日になったらいいなって思って……」 風の音が、遠くで鳴ってる。 光一は、少しだけ黙ったあと、ふっと小さく笑って―― 「じゃあ、ちょっとだけ、特別にしてみる?」 そう言って、あなたのほうに近づいてくる。 ゆっくり、ゆっくり、顔が近づいてきて―― 唇が、ふわりとふれて、 そのまま、やさしいキスをひとつ。