あいつなんて嫌いだったのに、、
anonymous
ジャンル
BL
物語
幼い頃から口喧嘩ばかりで仲が悪いように見えた実弥と俺。けれど本当は、互いにしか分からない傷や孤独を抱 えていて、なんだかんだで支え合ってきた。やがて二人は鬼殺隊に入隊し、同じ任務に就くことになる。しかしその任務中、実弥がある鬼の血鬼術に囚われてしまう。 術の効果は「近くにいる相手と肉体関係を結ばなければ解けない」というものだった。 逃げ場のない状況、そして近くにいるのは“俺だ け。 拒めば命が危ない、でも踏み込めばもう二度と昔の関係には戻れない。実弥の荒々しい言葉の裏に隠れた必死さを知り、俺の心にも抑えていた想いが揺さぶられていく。戦場のただ中で、二人の関係は大きく変わり始める。
シナリオ
俺と不死川実弥は、幼い頃から顔を合わせれば口喧嘩をする犬猿の仲だった。実弥は短気で粗暴、言葉も手もすぐに出る。俺も負けず嫌いで、彼にだけは絶対に引き下がりたくなかった。周囲から見れば仲が悪いようにしか見えなかっただろう。しかし実際は、互いに家族や周囲に言えない痛みを抱えていて、それを知っているのはお互いだけだった。だからこそ喧嘩をしながらも、なんだかんだで隣に立ち続けていた。 やがて時代は移り変わり、鬼に家族を奪われ、二人とも鬼殺隊に入隊することになる。戦いの世界に身を投じれば、背中を預けられるのは幼い頃からの因縁の相手である実弥だけだった。口では罵り合いながらも、命のやり取りを共にくぐり抜ける中で、確かな信頼が芽生えていた。表には決して出さず、本人たちすら気づかない形で、友情以上の感情が静かに積み重なっていた。 そんなある日、二人は山中での討伐任務を受ける。相手は強力な血鬼術を操る鬼で、これまで何人もの隊士を苦しめてきた手練れだった。戦いは激しく、連携をとっても追い詰めきれない。そんな最中、実弥が鬼の術に囚われてしまう。鬼が嘲笑いながら告げる。「その術はな、近くにいる者と交わらねば解けぬ。さぁどうする?」と。 術に絡め取られた実弥は苦しみ、身体は熱に浮かされ、理性が削がれていく。普段は気迫と怒声で押し切る男が、抑えきれない衝動に苛まれている姿を前に、俺は動揺する。解き方は一つ。だが、その代償はあまりにも大きい。 実弥は必死に耐えようとする。「俺に触れるな」「こんなもんに屈するくらいなら死んだほうがマシだ」と吐き捨てる。しかし熱に浮かされる身体は言うことを聞かず、普段の威勢の裏に怯えと焦りが滲み始める。その姿を見て、俺は思い知らされる。ずっと“嫌い”だと思っていた幼馴染を、どれだけ自分が大切に思ってきたのか。助けたいという気持ちは理屈を越えて、胸を締め付ける。 「死なせたくない」――それだけの想いで、俺は決断する。 仕方なくではなく、覚悟を持って実弥を抱き締める。実弥は荒々しく拒むように唇を噛みしめるが、次第に抗えなくなり、俺の名を呼んで縋る。二人の間にはこれまで積み上げてきた十数年の歴史があり、それがこの一瞬に押し寄せてくる。喧嘩ばかりだった日々も、誰よりも互いを分かっていたことも、すべてが熱に溶ける。 血鬼術は解け、鬼は討たれる。しかし二人の関係は、もう以前のままには戻れなかった。 「お前なんかに頼るつもりはなかった」 「俺だってそうだ」 そう言いながらも、互いに視線を逸らせない。術によって強制された一夜は、確かに“必要”だったはずなのに、心の奥底に眠っていた想いまで暴き出してしまったのだ。 それは恥ずかしいほど不器用で、血に塗れた世界に似つかわしくないほど純粋な感情だった。俺にとって実弥は、憎らしくて、うるさくて、それでも誰よりも大切な存在。実弥にとって俺は、殴り合わなければ素直になれない、それでも生きていてほしい相手。 任務を終えた後も、互いの関係はぎこちなく揺れ続けるだろう。けれど、もう二度と「ただの幼馴染」には戻れない。血鬼術がきっかけとなり、二人はついに言葉では語れない想いを知ってしまった。 そしてその先――また共に戦いながら、傷だらけの世界で不器用に支え合っていくのだ。