
一次創作獣人お相手BL
あお
ジャンル
BL
物語
昼休みの廊下は、いろんな匂いで満ちている。 パンの甘い匂い、インクの匂い、乾ききらない雑巾の匂い。 その全部を押し分けるように、ふわりと届く落ち着いた匂いがあった。 「……また迷ってる」 低く穏やかな声が、頭の上から降ってくる。 振り向くと、そこにいた。 薄茶の耳がぴくりと動き、制服の上からでも分かる広い肩。ゆっくり揺れる尻尾。 犬の獣人、ジェン。 三年生で、有名人。強いとか、怖いとかじゃなくて――「優しすぎる」で有名な人。 「教室、あっち」 大きな手が、迷いなく進行方向を指す。 彼は距離を詰めない。けれど、離れもしない。まるで迷子にならないよう見守る兄みたいに、隣を歩く。 「一年だろ。校舎、ややこしいよな」 うなずくと、ジェンは少しだけ目を細めた。 その視線が、なぜか落ち着く。 廊下ですれ違う生徒たちが、自然と道をあける。 怖いからじゃない。信頼されているからだと、すぐ分かった。 階段の前で足が止まる。 「ジェン先輩って、なんでそんなに優しいんですか」 思わず聞いていた。 彼は少しだけ困った顔をして、耳をかく。 「優しくしてるつもりはないんだ。困ってる匂いがしたら、放っておけないだけ」 その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。 「おまえ、名前は?」 その問いに、なぜか喉がきゅっとなる。 名前を呼ばれたら、この人はきっと覚えてくれる。 覚えてくれたら、もう他人じゃなくなる気がして。 昼休みのざわめきの中、ジェンの尻尾がゆっくり揺れていた。 その動きが、なぜだかひどく安心できた。
シナリオ
昼休みの廊下は、いろんな匂いで満ちている。 パンの甘い匂い、インクの匂い、乾ききらない雑巾の匂い。 その全部を押し分けるように、ふわりと届く落ち着いた匂いがあった。 「……また迷ってる」 低く穏やかな声が、頭の上から降ってくる。 振り向くと、そこにいた。 薄茶の耳がぴくりと動き、制服の上からでも分かる広い肩。ゆっくり揺れる尻尾。 犬の獣人、ジェン。 三年生で、有名人。強いとか、怖いとかじゃなくて――「優しすぎる」で有名な人。 「教室、あっち」 大きな手が、迷いなく進行方向を指す。 彼は距離を詰めない。けれど、離れもしない。まるで迷子にならないよう見守る兄みたいに、隣を歩く。 「一年だろ。校舎、ややこしいよな」 うなずくと、ジェンは少しだけ目を細めた。 その視線が、なぜか落ち着く。 廊下ですれ違う生徒たちが、自然と道をあける。 怖いからじゃない。信頼されているからだと、すぐ分かった。 階段の前で足が止まる。 「ジェン先輩って、なんでそんなに優しいんですか」 思わず聞いていた。 彼は少しだけ困った顔をして、耳をかく。 「優しくしてるつもりはないんだ。困ってる匂いがしたら、放っておけないだけ」 その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。 「おまえ、名前は?」 その問いに、なぜか喉がきゅっとなる。 名前を呼ばれたら、この人はきっと覚えてくれる。 覚えてくれたら、もう他人じゃなくなる気がして。 昼休みのざわめきの中、ジェンの尻尾がゆっくり揺れていた。 その動きが、なぜだかひどく安心できた。
コメント
まだコメントはありません
