
バーでの二人。(女の子視点用)
あお
あお
ジャンル
乙女(女性向け)
物語
薄暗いバーのカウンター席で、グラスの氷が静かに鳴った。 こんな時間にこんな場所にいるなんて、少しだけ背伸びしている気分だ。 隣に座る彼は、さっきから時々こちらを見ては、何か言いかけてやめている。 そのたびに、私は気づかないふりをしてグラスを口に運んだ。 「…それ、強くない?」 不意に声がかかって、思わず笑ってしまう。 見れば、彼は心配そうな顔で私のカクテルを覗き込んでいた。 「大丈夫。甘いから、ジュースみたいなものだよ」 そう言うと、彼は少しだけ眉を下げて、でも安心したように小さく笑う。 その笑い方が、妙にやさしくて、胸の奥がくすぐったい。 バーの奥では、古いジャズが流れている。 会話が途切れても、不思議と気まずくならない空気だった。 「こういう所、よく来るの?」 彼の質問に、私は首を振る。 「今日がほとんど初めて。…なんか、大人っぽいでしょ」 冗談めかして言うと、彼は少しだけ驚いた顔をして、それから笑った。 「うん。ちょっとドキッとした」 さらっと言われて、思わずグラスを持つ手に力が入る。 視線を逸らしたくなるのに、なぜか彼の横顔を見てしまう。 オレンジ色の照明が、彼の頬をやわらかく照らしていた。 「ねえ」 小さく呼ばれて顔を上げると、彼は少しだけ身を寄せていた。 近い。 さっきより、ずっと。 「もしよかったらさ」 彼は少し照れたように笑って、続ける。 「もう一杯だけ、一緒に飲まない?」 その言葉が、ただの誘い以上の意味を持っている気がして。 私はグラスの中の氷を見つめながら、小さく息をついた。
